甘露焙茶

2023年7月初旬のウンカの加害を受けた葉を使った釜炒り焙じ茶です

ウンカの加害というと東方美人の蜜香やダージリンのマスカテルフレーバーが有名ですが、焙じ茶として強い火入れをしている為、似たような香りはありません

しかしながらウンカの加害にあった葉を丁寧に火入れをしていくと蜜香やマスカテルフレーバーの元になるジオールという成分が火入れの熱で変化していき甘口の余韻のあるお茶となります


ウンカに加害されたお茶に関しては、私は台湾の東方美人をメインとする農家にて住込みで全ての製茶作業、焙煎の基礎を習得している為、どのような処理・仕上げを選択すればどのような特徴が出るのか細部まで理解しています


この焙じ茶も口に入れると最初に焙煎香を感じた後、喉奥に抜けていく香りと舌上に丸く転がるような優しい甘さを感じます

このようにウンカの害は仕上げや火入れの方法によって様々なところへ影響します


焙じ茶というと一般的には求めやすい価格であり、加工方法としても強火で数分、長くても数十分火入れをして仕上げたものが殆どです


しかし、素材に特徴があるのであれば多少手間がかかってもそれを最大限に活かしたいものです

茶師という自分の作品を世に出せる立場、自分のアイデンティティで勝負できる職業についているのですから


この焙じ茶は製茶後、一週間程茶葉を休ませた後(乾燥茶葉内の水分分布を均一にする為)、釜炒りの機械にて低温から徐々に温度を上げていき高温まで3時間程かけて火を入れます

製茶後すぐの乾物としてのお茶はいわゆる生の状態で何も火入れをしていない為、劣化要素が多分にあります

上記の最初の火入は軽く火を通し、茶葉を安定状態に保つことと、若干の焙じ効果を進める作業です


その後、2週間から1ヶ月程茶葉を休ませます

この間に何度かテイスティングをし、乾燥茶葉内の水分分布のバランスの確認と茶葉の水分率の推移を確認していきます

茶葉が次の釜炒りの準備ができたことを確認し、気温の高い雨の日を狙って2回目の焙じ工程に入ります

気温が高く雨の日に作業を行うのは、水は熱伝導率が高い為、気温が高く雨が降り湿度の高い日というのは焙煎を安定的にかけるのに一番適しているからです

2回目の焙煎も1回目と方法は同じですが、状態により作業は3〜5時間になります


ここまでの工程で焙じ茶としての香味は出来上がっています

6〜8時間程の直火での焙じ工程となりますが、これは日本茶業界の焙じ作業としては極端に長い部類に入ります

しかしながら私が勉強した台湾の烏龍茶の焙煎作業に比べたらとても短いものとなります

烏龍茶の焙煎は様々な焙煎度がありますが、中〜重焙煎となると早いもので3ヶ月、長いものだと1年をかけて茶葉に火を入れていきます


焙煎という作業は各温度帯で茶葉の内容成分を段階的に変化させて香味を作る作業です

イメージとしては温度が上がるごとに茶葉の成分AがBになり、BがCに、CがDになるといった感じです


今回の場合、直火で6〜8時間程でこの成分変化を急速に行う作業なので

どうしても歪みがでます


具体的には口に入れた際に細かなザラつき、雑味が多少出てしまいます

焙じ茶はこの雑味が少なからずあるのが普通なのであまり気にする方を見かけたことはありませんが私としては「美しくない」と思ってしまいます


その為、2回目の焙じ工程が終わった後3ヶ月以上茶葉を休ませ、最終作業となります

烏龍茶の焙煎で使う電気の温風式の焙煎機を使い低温から高温まで数時間かけて雑味の原因となる不純物を取り除いていきます

40度ぐらいの温風からかけ始めかなり高い温度まで進めますが、不純物は40度で抜けるもの50度で抜けるものと色々とある為、あらかじめテイスティングをし、どの温度帯の不純物が多いのかを確認してから作業に入ります

焙煎機を使う作業ですが、この雑味などを取り除く作業を台湾では焙煎と呼ばず「修理」や「手術」と呼んでいます


この作業が完了し、ようやく「甘露焙茶」の完成となります



【おすすめの飲み方】

4gの茶葉に200cc程の熱湯、各煎30秒ぐらいで6煎程楽しめます

冷茶は上記を水にお着替え冷蔵庫にいれ半日程で出来上がりますが、焙じ茶は熱湯で淹れたものをガラスポット等にいれ冷やした方がより美味しくいただけます